不在者と不在者財産管理人制度

従来の住所又は居所を去り、容易に戻る見込みのない者(不在者)に財産管理人がいない場合に、家庭裁判所に申し立てて、不在者財産管理人の選任を行うことができます。不在者財産管理人は、不在者の財産の管理行為(保存行為、利用行為、改良行為)するほか、家庭裁判所の権限外行為許可を得た上で、不在者に代わって遺産分割や不動産の売却等(処分行為といいます)を行うことができます。不在者自身や不在者の財産について利害関係を有する第三者の利益を保護するための制度です。

容易に戻る見込みがないとは、要するに、音信不通、行方不明になっているケースです。たとえばある人が海外に移住した場合、容易に戻ってくることはないでしょうが、どこにいるのか分かっている限りは不在者とはいいません。また、行方不明といっても1週間や1か月程度では不在者とは認定されず、おおむね1年以上は行方不明である必要があります。


実務上、不在者財産管理人制度が利用されるのは、相続人の中に行方不明者がいて遺産分割協議ができないときです。上述のとおり、不在者財産管理人は、不在者の財産の管理行為しかすることができませんので、処分行為にあたる遺産分割を行う場合、家庭裁判所に、別途、権限外行為許可の申立てをおこなう必要があります。ただし、不在者の財産管理人は、不在者の財産を保全するのが本来業務なので、最低でも不在者の法定相続分は確保しなければいけません。したがって、遺産分割協議の内容が不在者の法定相続分を下回るような協議では、特段の事情がない限り、家庭裁判所の許可は得られないことになります。「どうせいないのだからやらなくてもいい」と思われる方も多いでしょうが、そうではありませんのでご注意を。

家庭裁判所に申し立てをする際は、不在者財産管理人の候補者を推薦することができます。実務上は、不在者と直接の利害関係がない親族が候補者になっていることが多いのではないかと思われます。注意を要するのは、遺産分割協議をするために申し立てる場合、他の相続人が不在者財産管理人になることは、まず、考えられません。自分が自分と遺産分割協議をすることにになるからです(これを利益相反行為といいます)。適任者がいなかった場合、初めから専門家を候補者として申し立てる事もできますし、候補者を記載しなかった場合、通常、家庭裁判所が見つけてきた弁護士や司法書士が就任することになります。

不在者財産管理人は、不在者の財産を管理するために選ばれていますので、不在者が戻ってきたり、不在者の死亡(失踪宣告含む)が明らかになったり、不在者の財産がなくなったときに、その任務を終えることになります。遺産分割のために選任したからといって、遺産分割が終われば不在者財産管理人の仕事も終わり、というわけではないことに注意が必要です。ただ、実務では、ほとんど終わると思いますが…。

近年、不在者財産管理人が脚光を浴びたのは、東日本大震災のときです。復興事業をすすめるにあたり、土地の所有者が行方不明という事例が多数存在し、復興事業に支障が生じていました。そのときに、不在者財産管理人制度の積極的な活用が叫ばれ、同時にその役目を弁護士や司法書士が負うことで、微力ながらも復興の手助けをしていました。現在では、大規模災害のほか、所有者不明土地問題や空き家問題で、再び、不在者財産管理人制度の利用と、制度自体の改正に注目が集まっています。

特に当職が気になるのが、不在者財産管理人制度の一部となるのか、別立てで法制化するのか不明ですが、「所有者不明土地管理制度」なる制度を法務省が検討しているところです。当職は、現行制度を利用しつつ、所有者不明土地問題に対応できるということで、所在者不明土地だけを業務とする「スポット不在者管理人」に落ち着くのではないかと思っています。果たして、所有者不明土地問題の解決の切り札になるのでしょうか。

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