結局得なの?老齢年金の繰上げと繰下げ

老齢年金は原則65歳から受給が始まりますが、65歳より早く受給を始める「繰上げ受給」と、66歳以降に受給を始める「繰下げ受給」という制度があります。繰上げ受給と繰下げ受給それぞれの仕組みと注意すべき点、そして、損益分岐点はどのあたりになるのかご紹介します。

まず、早く受給を始める「繰上げ受給」です。繰上げ受給とは、本来、受け取ることのできる老齢年金を、60歳から65歳になるまでの間に繰上げて請求することをいいます。繰上げ支給を請求した時点(月単位)に応じて年金が減額されることになり、一度減った年金額は一生変わりません1か月早くもらうごとに月0.5%年金額が減額されるため、60歳の誕生月に請求すると、12月×5年×0.5%=30%となり、年金額が30%減額されることになります。

繰上げ受給をする際、年金額が減るということに注目が行きがちですが、原則として、障害年金の請求ができなることに注意が必要です。65歳から年金をもらったとしても何年間もらえるのか分からないのですから、少しでも早く受給したくなる気持ちは分かるのですが、繰上げ受給後、65歳までに事故や病気で障害が残ったとしても、もはや障害年金の請求ができなくなってしまいます。これは、本当に大きなデメリットだと思います。また、老齢基礎年金、老齢厚生年金の両方を受給できる場合、どちらかだけ繰上げるということはできません。必ず、両年金を繰上げることになります。制度を十分に理解した上で、繰上げ受給を選択されるようお願いします。

なお、特別支給の老齢厚生年金を受給している人が繰上げ請求をする場合、特別支給の老齢厚生年金の受給は諦めることになります。減額されてしまう分、繰上げた老齢厚生年金の額が、特別支給の老齢厚生年金の額より低くなるので、この点もデメリットになります。

次にしばらく受給開始を待つ「繰下げ受給」です。繰下げ受給とは、65歳から受け取ることができる老齢年金を、66歳以降から受給し始めるという制度です。現在のところ、70歳まで繰下げ(受給待機)することができます。繰下げ支給を請求した時点(月単位)に応じて年金が増額されることになり、一度増えた年金額は一生変わりません1ヶ月受給開始を待つごとに月0.7%年金額が増額されるため、70歳の誕生月まで待つと、12月×5年×0.7%=42%となり、年金額が42%増額されることになります。ただし、65歳からの老齢厚生年金に配偶者加給がつく場合、老齢厚生年金は繰下げないほうがいいケースが大半かと思います。配偶者加給をもらえる期間がほんのわずかという場合を除き、圧倒的に配偶者加給をもらった方が割がいいはずです。

注意すべき点としては、必ず1年は待たないといけないということです。66歳の誕生月前に請求してしまうと、これは普通に65歳の時点で請求したことになってしまいます。ですから、繰下げ受給の場合、必ず12月×0.7%=8.4%は増額する年金を受給することになります。繰下げ受給では、繰上げ受給とは異なり、老齢基礎年金だけの繰下げ、老齢厚生年金だけの繰下げが認められています。なお、すでに障害年金を受給していた人は、老齢年金を繰り下げることはできません。これは、老齢年金の額が割増され、障害年金の額を越えたところで、障害年金から老齢年金に切り替えることを許さないためです。

老齢年金の繰下げ受給を選択したいときは、65歳での年金請求を一旦無視してください。そして、66歳以降、そろそろ年金を受給しようかなと思い立ったときに、老齢年金を請求することによって、繰下げ受給を選択できることになります。あまり知られていないことですが、この際に「やっぱり65歳で請求したことにする」という選択も可能です。年金を請求する時点での所得や体調などを考慮して、通常通り受給するのか、せっかく待ったのだから繰下げて受給するのか、よく吟味してください。

では、誰もが気になる「繰上げ受給と繰下げ受給どっちが得なのか」に話を進めます。老齢年金は、長生きすればちゃんとペイする制度ですので、長生きしたら得というのはナシにするとして、単純に、算数レベルでのお話です。

下表(PDF)を見て下さい。65歳でもらう年金を中心に置いています。65歳でもらう年金を100%(100万円と考えても大丈夫)とすると、1年間で100%、2年間で200%、3年間で300%と累積年金(総受給額)が積み上がっていきます。これが基本形です。

65歳より左側が繰上げ受給の場合です。1年受給を早くするごとに、年6.0%年金額が減額されます。65歳より前から受給しているので、早い時期から累積年金が積み上がります。しかし、1年で積み上がる額が少なくなるため、約16年後に、65歳から受給した場合の年金に抜かれてしまう(赤字転換)ことになります。

65歳より右側が繰下げ受給の場合です。1年年金の受給を待つごとに、年8.4%年金額が増額されます。66歳より後から受給しているので、累積年金の積み上がりのスタートは遅くなります。しかし、1年で積み上がる額が多くなるため、約12年後に、65歳から受給した場合の年金を抜く(黒字転換)ことになります。

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令和2年の年金法改正で、令和4年4月1日より、繰上げ受給の減額率が、1か月0.5%から、0.4%へ変更となります。また、繰下げは利率は変わりませんが、待機できる年齢が75歳まで延長されることが決まっています。12月×10年×0.7%=84%ですから、84%増額した年金を受け取れるということになります。約12年受給すれば総受給額が逆転するというのは変わりませんので、75歳+12歳=87歳、87歳くらいまで長生きできると自信のある方は、検討されてみてはいかがでしょうか。

ちなみに、令和元年の日本人の平均寿命は女性87.45歳、男性81.41歳です。これを頭に入れて表を見ると、また違った見え方になるかもしれません。年金は「保険」なので、赤字か黒字かで判断してはいけないのかもしれませんけど…。