寄与分と特別の寄与の違い

令和元年7月 1 日から施行されて改正民法において、特別の寄与という条文が新設されました。いったいどのようなものなのでしょうか。

寄与分は、改正前民法から定めがありました。条文の一部を抜粋すると…

民法904条の2

共同相続人中に、被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付、被相続人の療養看護その他の方法により被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした者があるときは、…相続分に寄与分を加えた額をもってその者の相続分とする。

条文を読んでいただければ明白なのですが、寄与分は、相続人にのみ認められた権利です。そのため、義理の母親の面倒を見た長男の奥様(要するに嫁姑関係)が、療養看護により被相続人の財産の維持又は増加に寄与しても、寄与分を主張することはできず、不公平であるとの指摘がなされていました。

そのために、今回新たに特別の寄与という条文を新設しました。条文の一部を抜粋すると…

民法1050条(新設)

被相続人に対して無償で療養看護その他の労務の提供をしたことにより被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした被相続人の親族…は、相続の開始後、相続人に対し、特別寄与者の寄与に応じた額の金銭の支払を請求することができる。

新設の「特別の寄与」では、寄与を認める範囲が「被相続人の親族」まで広がりました。ここで「親族ってどこまで?」という別の問題が生じるのですが、ここでは詳細は割愛します(6親等内の血族と3親等内の姻族です)。特別の寄与をした親族のことを「特別寄与者」、寄与に応じた額のことを「特別寄与料」といいます。

条文を表にまとめるとこのようになります。

寄与分と特別の寄与の異同
寄与分特別の寄与
対象となる人相続人相続人を除く親族
寄与となる行為事業に関する労務の提供
財産上の給付
被相続人の療養看護
その他の方法
その他の労務の提供

無償で療養看護
寄与の結果被相続人の財産の維持又は増加被相続人の財産の維持又は増加
寄与の程度特別の寄与特別の寄与
認められるもの相続分の増加(結果的に引継ぐ財産の増加)特別寄与料

「対象となる人」以外の要件を表の上から順にみていきます。

まず、寄与と認められる行為です。寄与分では「事業に関する労務の提供又は財産上の給付、被相続人の療養看護その他の方法」、特別の寄与は「無償で療養看護その他の労務の提供」となっており、特別寄与者は寄与行為の範囲が狭いことが分かります。請求自体は相続人に対して行いますが、事実上、相続人以外の者に被相続人の財産に対する請求権を認めることから、寄与行為を限定したものと考えられます。

そして、これらの「寄与行為」の結果、「被相続人の財産の維持又は増加した」という因果関係が必要です。実際の療養介護などは、財産的な価値を生まない事実行為(食事を食べさせる・風呂に入れる・オムツを変える)の方がシンドいと思いますが、財産的な利益があった部分のみが寄与分算定の基礎となります。療養介護で尽くした結果、老人ホームに入らないですんだという「財産の維持」で主張したほうがいいのかもしれません。

さらに、それが「特別の寄与」である必要があります(用語がダブってて分かりにくですが)。相続人が寄与分を主張できるときの「特別の寄与」は、被相続人と相続人の身分関係に基づいて通常期待される貢献を超えるものが要求されます。被相続人と相続人は、夫婦や親子などの親族間の扶養義務を負っていることが多いため、それらの義務を超えるような顕著な貢献でないと寄与分とは主張できません。特別寄与者は相続人ではないため、そもそも被相続人に対してそのような義務は負いません。そのため、特別寄与者が特別寄与料を主張できる「特別の寄与」は、その貢献に報いるのが相当と認められる程度の貢献であれば足りると解されています。

これらの要件が全てクリアされたうえで、寄与分が認められた相続人は「相続分の増加」という形で、特別寄与者は特別寄与料という形で、被相続人に対する貢献が報われることになります。

ただ、現実的には、特別寄与者が特別寄与料を得るのは困難でないかと思います。従前からある「寄与分」でさえ、仮に裁判をしたとしても「特別の寄与」であると認められるかどうか見通せないと言われていました。その「寄与分」を真似て作った「寄与分的なもの」を「相続人以外の者が主張する」となると、揉める原因が増えただけのような気がしないでもないです。

一番最初に具体例としてあげた「嫁の献身に報いる」という立法ニーズがあったようなのですが、ダンナが相続人だった場合、相続人であるダンナと夫婦タッグで遺産分割協議の場に出るのかな、それともダンナに対して特別寄与料を請求したりするのかな…と、少し心配になります。