在職老齢年金制度(在職中の年金)とは

在職老齢年金とはその名のとおり「在職中でも受給できる年金のことです!」と、断言すると、通常の感覚からは大きくズレると思います。なぜズレるのかを紐解くために、在職老齢年金の歴史を振り返りたいと思いますが、その前に、納得できるできないは別として、年金に関わる根本的な認識の齟齬について、先に述べたいと思います。

年金って、保険なんですよね。

この一言に尽きます。多くの方がイメージする老齢年金は、毎年少しづつお金を積み立てることによって、将来その積立金が自分に戻ってくる、そんなイメージではないでしょうか。当職も、社労士の勉強をするまではそうでした。でも実際は、

やっぱり年金って、保険なんですよね。

自動車を運転する人は自動車保険、住宅を所有している人は火災保険といったように、万一のリスクに備えるために保険に入ります。では、年金はどうでしょう。こと、老齢厚生年金は「年齢を重ねて働けなくなり収入(給料)がなくなったときのため」にかける保険です。ということは「収入があるのなら支給しなくていい」というのが理論的な帰結になります。そのため、労働者の年金である厚生年金保険は、制度開始以来、支給開始年齢要件に加え、「退職」 を支給要件としており、在職中は老齢年金を支給しないことが原則でした。

しかし、現実的な問題として、働き盛りの労働者の収入と、それなりに齢を重ねた労働者の収入にはおのずと差が出てしまうため、退職しなくても収入が減ったら年金の一部を支給する「在職老齢年金」という制度が開始されます。ですから、在職老齢年金とはその名のとおり「在職中でも受給できる老齢年金のこと」だったのです。

一方、昭和60年の法改正により、基礎年金でありかつ強制加入である国民年金が始まり、65歳から老齢基礎年金を受給できるようになりました。これに合わせて、厚生年金保険も、在職中かどうかや収入の有無を問わず、65歳から老齢厚生年金を受給できるように改正されました。

ここで問題となるのが、老齢厚生年金の受給年齢開始時期引き上げです。同年の改正により、老齢厚生年金も65歳からの支給が原則となったため、60歳以上65歳未満の方には、特別支給の老齢厚生年金を出すことにしていました。ただし、上述のとおり、老齢厚生年金は「退職しないと出さない」ことが原則です。もはや、出すのか出さないのか分からなくなってきます。その調整を行うために「在職老齢年金」の考え方を引き継ぎ、「60歳以上65歳未満であっても特別に老齢厚生年金は出すが、一定額以上の収入があればそれに応じて停止する」となったわけです(現在の制度に一番近い形になったのは平成6年改正だと思われます)。もらう方からすると「もらえるはずの年金をもらえない」となりますが、国の立場からは「もらえない年金のはずなのに一定額は出している」となるわけです。

在職老齢年金は、①働けば働くほど年金をもらえなくなるため高齢者の労働意欲を削いでしまうのではという課題と、②収入が多い高齢者にまで支給する必要があるのか(現役世代の負担の問題)という課題があり、この相反する課題を抱えつつ、財政状況を睨みながら、法改正が繰り返されてきています。平成12年には、65歳~69歳までの在職老齢年金(つまり一部または全部の停止)、平成16年には70歳以降の在職老齢年金(つまり一部または全部の停止)を導入し、保険料の徴収と保険金の支払いのバランスを取ってきたのが現状です。ただ、65歳になれば老齢厚生年金は全額出すはずだったので、65歳以降の在職老齢年金は、イメージどおりの「在職停止年金」と言っていいのではないでしょうか。

本年(令和2年)度の基準だと、60歳から64歳までの特別支給の老齢厚生年金を受給している方については、大雑把に言って、年金と給料を足すと月額28万円を超える場合、65歳以降の老齢厚生年金を受給している方については、同じく月額47万円を超える場合、老齢厚生年金の額の一部または全部が停止(全額または一部の支給?)されることになっています。

令和2年の年金法改正では、①65歳以上の在職中の老齢厚生年金受給者の年金額を毎年一定時期に改定すること、②特別支給の老齢厚生年金を対象とした在職老齢年金制度について、支給停止が開始される賃金と年金の合計額の基準を、28万円から47万円に引き上げることが決定しました。この改正は、令和4年4月1日施行予定です。少子高齢化に対応すべく、働ける間は働いてもらいつつも、老齢厚生年金はもらいやすくするという方向に舵を切ったのかもしれません。