労災と公的年金の差異と調整について

労働者が労働災害に巻き込まれ、不幸にも障害が残ったり、死亡してしまった場合、労災(労働者災害補償保険)から障害(補償)年金や遺族(補償)年金を受け取ることができます。一方で、公的年金(厚生年金保険・国民年金)にも、障害年金や遺族年金があります。同じようなネーミングですが、どのような違いがあるのでしょうか。制度の違いや受給の際の注意点についてご紹介します。(※労災が適用される場合は、労働者であることから、原則的に公的年金=厚生年金と理解してください。)

(補償)という表記方法について

労働者災害補償保険法に基づく給付は、例えば「障害(補償)給付」のように、補償という言葉がカッコ書きされることがあります。これは、業務中の災害であれば、事業主に補償義務が生じるため「障害補償給付」となりますが、通勤中の災害の場合、事業主に補償義務がないため「障害給付」となるためです。これらをまとめて説明する場合「障害(補償)給付」のようにひとまとめにして表記します。

まず、労災と公的年金の保険制度としての違いです。一番の違いは、何と言っても、労災では、障害や死亡の原因となった傷病が、労働災害(業務上及び通勤中)によって生じたものかどうかを問われるということです。労災はその名のとおり労働災害による事故を補償する保険ですから、労災限定となるのは、当然のことです。一方、公的年金は、障害や死亡の原因となった傷病について、その発生原因を限定していません。また、労災は、事業主が保険料を全額負担していますが、公的年金は、事業主と労働者が保険料を折半しています(国年は厚年を通じて保険料支払い)。

個別にみていきます。まず、障害(補償)年金と障害年金の違いから詳しくみていきます。表を示します。

制度受け取れる年金治癒の必要性受給できる障害等級
労働者災害補償保険法障害(補償)年金あり労働者災害補償保険法が定める等級のうち第1級~第7級
厚生年金保険法障害厚生年金なし国民年金法・厚生年金保険法が定める等級のうち第1級~第3級
国民年金法障害基礎年金国民年金法・厚生年金保険法が定める等級ののうち第1級・第2級

両制度で差が出るのは「治癒」したかどうかです。「治癒」というのは心身が元に戻るという意味ではなく、症状が固定するという意味です。労災では、傷病が治癒する必要があります。一方、公的年金では治癒する必要はありません。初診日(最初に診断を受けた日)から1年6カ月経てば、治癒していなくても、請求することができるようになります。なお、労災の場合、初診日から1年6カ月経っても治癒しないときは、傷病(補償)年金という別の名前の年金が支給されることになります。

そして、年金を受け取れる障害等級に差があります。労災の場合、年金を受け取るためには、労働者災害補償保険法が定める等級のうち第1級~第7級に該当する必要があります。一方、公的年金は、厚年については、国民年金法・厚生年金保険法が定める等級のうち第1級~第3級国年については、国民年金法が定める等級のうち第1級・第2級に該当する必要があります。なお、等級表が全く同じではないので、労災で1級であれば公的年金でも第1級になる、というものではありません。また、労災には第8級から第14級の障害等級もあり、これらの等級に該当すると、障害一時金という一時金の支給がなされます。厚生年金にも第3級に該当しない程度の障害が残った場合、障害手当金という一時金があります。国民年金には、このような一時金制度はありません。

では、両制度から年金を受け取れるようになった場合、どうなるのでしょうか。「そもそも両方もらえるの?」とまず疑問に思われるかもしれませんが、公的年金は、障害の発生原因を限定していませんから、障害が残ったという事実だけで請求することができます。この場合、公的年金は全額受け取れますが、労災の方は減額調整されることになります。これは、両制度からの年金が未調整のまま支給されると、受け取る年金の合計額が被災前に支給されていた賃金よりも高くなってしまったり、保険料負担について、公的年金は事業主と労働者が折半していますが、労災は事業主が全額負担していることから、事業主が保険料を二重負担してしまうという問題が生じてしまうためです。労災の減額率は次のとおりです。

労災と公的年金の調整(障害)
併給される公的年金障害(補償)年金の支給率
障害基礎年金+障害厚生年金0.73
障害厚生年金0.83
障害基礎年金
0.88

次に、遺族(補償)年金と遺族年金の違いですが、給付原因となる事実(死亡)に等級などはありませんので、受給権者と受給の仕方の違いを表に表します。

遺族給付の受給権者比較
制度受給権者転給
労働者災害補償保険法亡くなった人によって生計を維持されていた
①配偶者(夫の場合55歳以上)
②子(高校卒業まで)
③父母
④孫又は祖父母
する
厚生年金保険法亡くなった人によって生計を維持されていた
①配偶者(夫の場合55歳以上)
②子(高校卒業まで)
③父母
④孫又は祖父母
しない
国民年金法亡くなった人によって生計を維持されていた
①子のある配偶者
②子(高校卒業まで)
しない

遺族(補償)年金独特の制度として「転給」というものがあります。これは、労働者が被災したときに受給要件を満たす次順位者がいる場合、先順位の人が失権した場合、次の人が受給権を得るというものです。例えば、ある労働者が妻と高齢の父母の4人暮らしであったとします。その労働者が労災によって亡くなった場合、まず妻が遺族(補償)年金と遺族厚生年金と受給することになりますが、その妻が何かしらの理由で受給権を失った場合、遺族(補償)年金は父母が受給することになり(転給)ますが、遺族厚生年金はそのまま失権することになります。

続いて併給した場合の労災の減額率です。障害と同様の理由から、労災側が減額されることになります。

労災と公的年金の調整(死亡)
併給される公的年金遺族(補償)年金の支給率
遺族基礎年金+遺族厚生年金0.80
遺族厚生年金0.84
遺族基礎年金0.88

以上、労災と公的年金(厚生年金)の障害給付と遺族給付の差異と調整についてご紹介でしたが、気になる情報が…。やはり共済こわっ!そりゃ破綻するよ…。

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