夫婦間の遺族厚生年金について

年金制度は、大きく国民年金と厚生年金があるため、遺族年金も遺族基礎年金と遺族厚生年金の2つがありますが、ここでは遺族厚生年金について、紹介したいと思います。遺族厚生年金には、短期要件長期要件と呼ばれる2つの受給要件があります。両方の要件に該当するケースもあるのですが、短期要件は現役世代の労働者が亡くなったとき、長期要件は仕事をリタイアされた方が亡くなったときとイメージしてください。

遺族基礎年金を受給するには
亡くなった人の要件受給する人の要件
[短期要件]
被保険者
被保険者であった者が、被保険者の資格を喪失した後に、被保険者であった間に初診日がある傷病により当該初診日から起算して5年を経過する日前に死亡したとき
障害等級の1級又は2級に該当する障害の状態にある障害厚生年金の受給権者
亡くなった人によって生計を維持されていた
①配偶者(夫の場合55歳以上)
②子(高校卒業まで)
③父母
④孫又は祖父母
[長期要件]
老齢厚生年金の受給権者又は保険料納付済期間と保険料免除期間とを合算した期間が25年以上である者

遺族厚生年金は、配偶者や子だけでなく、父母や孫、祖父母まで受給できる年金ですが、受給できる可能性が圧倒的に高いのは妻であるため、当職は、「妻のための年金」だと理解しています。ちなみに、夫が遺族厚生年金を受給できるようになったのは、平成26年4月1日からです。しかし、夫が遺族年金を受給できる事例はかなり少数でしかも短期間になるのではないかと思われます(後述)。

まず、遺族厚生年金の額ですが、現行法の規定では、亡くなられた方の老齢厚生年金のうち、報酬比例部分の4分の3です(過去の年金では違う方法で計算しているものもあります)。ぶっちゃげた言い方をすると「支払った保険料の額による」、つまり「給料の額による(上限あり)」いうことになります。一定額に決まる老齢基礎年金と大きく違うところです。

すでに老齢厚生年金を受給されている場合、つまり、長期要件の場合、だいたいの金額が分かります。毎年届く年金額の改定額通知書を確認してみてください。その中に老齢厚生年金の金額が記載されていますので、その額のおおむね4分の3の額が、遺族厚生年金の額になります。おおむねというのは、人によっては、老齢厚生年金の額の中に「経過的加算」「配偶者加給」といった「報酬比例部分」ではないものが含まれている可能性があるからです。

未だ老齢厚生年金を受給されていない場合、つまり、多くは現役世代=短期要件の場合ということになりますが、この場合も、報酬比例部分の4分の3です。ただ、300月保証というものがあります。例えば、まだ30代前半で不幸にも亡くなられた場合、厚生年金保険に加入して10年も経ってないということになります。この場合、あまりにも年金額が低くなるので、300月(25年)厚生年金保険に入ったこととして年金額を計算することになります。

報酬比例部分の計算方法は次のとおりですが、100人いれば100とおりの計算方法になるので、詳細は割愛させていただきます。

厚生年金報酬比例部分額の計算式
分類平均値を出す報酬×給付乗率×被保険者期間
平均標準報酬月額×7.125/1000×平成15年3月までの加入月数
平均標準報酬額×5.481/1000×平成15年4月以降の加入月数
①+②=報酬比例部分の厚生年金額

短期要件と長期要件の両方に該当することもあります。「現役のサラリーマン」だけど「保険料納付済期間と保険料免除期間とを合算した期間が25年以上」あるようなケースなのですが、この場合、遺族が何も言わなければ「短期要件」として扱われます。ただし、「長期要件」の方が有利な場合、年金事務所からその説明がされるはずですので、長期要件と短期要件のどちらに該当するのか分からなくても大丈夫です。

ここで特に注意してもらいたいのが、遺族厚生年金の額と実際の支給額は異なるということです。すでに、老齢厚生年金を受給している場合、遺族厚生年金が少なくなる、もしくは、もらえなくなります(実際は国民年金と障害厚生年金も絡んでくるのでもっと複雑です)。

遺族厚生年金の額と実際の支給額
特別支給の老齢厚生年金を受給しているとき本来の老齢厚生年金を受給しているとき
特別支給の老齢厚生年金と遺族厚生年金の額を比較して、遺族厚生年金が多ければ、遺族厚生年金を選択可能老齢厚生年金が自動的に優先し、老齢厚生年金と遺族厚生年金の額を比較して、遺族厚生年金が多ければ、差額を支給

特別支給の老齢厚生年金を受給できる60歳から65歳までの間は、老齢厚生年金と遺族厚生年金のどちらかしか受給できません。これを「年金の選択」といいます。通常、金額の高い方を選ぶことになります。65歳からの老齢厚生年金と遺族厚生年金は同時にもらえますが、老齢厚生年金が優先します。これを「老齢厚生年金の先充て」などいいます。老齢厚生年金と遺族厚生年金の額を比較して、遺族厚生年金が多ければ、差額を支給します。

次に、残された配偶者の年齢要件です。

残された配偶者の年齢要件
妻が受給する場合夫が受給する場合
年齢制限無し
(30歳未満で子がないと5年間の限定支給)
55歳以上

妻が受給する場合、つまり夫が死亡した場合、妻は年齢を問わず、遺族厚生年金を受給できます。そして、基本的に、亡くなるまで受給される方が多いと思われます。若齢期の妻の特例というものがありますが、最初から受給権がないということはありません。一方で、夫が受給する場合、つまり妻が死亡した場合、夫は55歳以上でなければなりません。55歳未満で妻をなくした場合、妻がどれだけキャリアウーマンであっても、遺族厚生年金は受給できません。しかも、年金制度(日本の働き方?)の仕組みから、受給に大きな壁があります。上述した遺族厚生年金より老齢厚生年金の額が高額である場合、受給できないという壁です。

女性の社会進出が叫ばれる昨今ですが、それでもやはり、今の日本では、男性の方が老齢厚生年金の額が高い傾向にあります。夫が受給する遺族厚生年金は、妻の老齢厚生年金の4分の3の額ですから、ますますその差は開いてしまいます。そうすると、夫としては老齢厚生年金のみを受給せざるを得ないという結論になるわけです。現実的には「55歳から自分の老齢厚生年金が出るまで」が、夫の受給期間になってしまうことが多いのです。

配偶者以外が受給する遺族厚生年金を絡めると複雑化しすぎるので、夫婦間での年金のみの紹介でした。

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