法定代理人は利益相反行為に注意

利益相反行為とは、読んで字の如く「利益が相反(あいはん)する行為」のことです。要するに、その行為が、一方の当事者にとっては利益となるものの他方の当事者にとっては不利益となる行為です。法律でいうところの「利益相反行為」は、民法108条1項に定められています。

民法108条1項

同一の法律行為については、相手方の代理人となり、又は当事者双方の代理人となることはできない。ただし、債務の履行及び本人があらかじめ許諾した行為については、この限りでない。

「同一の法律行為について、相手方の代理人となること」を「自己契約」といい、「同一の法律行為について、当事者双方の代理人となること」を「双方代理」といいます。「自己契約」の例としては、Aさんが自分の自動車を売却する代理権をBさんに与えたときに、Bさん自らがその自動車を買うようなケースです。この場合、Aさんの代理人としてのBさんと、Bさん本人としてのBさんが契約するので、結局のところBさんがひとりで契約していることになるので「自己契約」と呼ばれます。「双方代理」の例としては、同じく自動車を売ろうとしているAさんの代理人であるBさんが、同時に買主であるCさんの代理人となるようなケースです。この場合、Aさんの代理人としてのBさんと、Cさんの代理人としてのBさんが契約するので、「双方代理」と呼ばれます。

このような利益相反行為が規制されているのは、利害が対立する当事者間における法律行為について、同一の代理人が当事者双方に関与してしまうと、代理権を与えた本人に不利益をもたらす恐れが大きいからです。

ただ、実際は、上述のような例は、日常生活ではよく見られます。司法書士の登記申請もそうですし、不動産業者も売主と買主の代理人になって売買を仲介したりします。これらは、「債務の履行及び本人があらかじめ許諾した行為」であるため、認められることになります。ちなみに、弁護士は、利益相反に当たらないか相当慎重にチェックします。

そろそろタイトルの話に移ります。

実務では、遺産分割協議の際に、この利益相反行為が問題となることがよくあります。

例えば、未成年の子ひとりを残して、夫が先立ったとします。相続人は妻と未成年の子です。この場合、遺産分割をすることができません。なぜかというと、妻すなわち母は、未成年の子の親権者という法定代理人であり、未成年の子に代わって遺産分割協議をすることになり、結局、妻は、妻自身の立場と未成年の子の法定代理人という立場で、ひとりで遺産分割協議をすることになるからです。仮に、遺産を全部未成年年の子が相続するという遺産分割協議を整えるつもりでも、認められません。遺産分割協議という場を設けること自体が利益相反行為となるからです。この場合、未成年者の子のために、家庭裁判所で特別代理人を選任する必要があります。

同様のことが、成年後見でも生じます。例えば、母が認知症となってしまったため、ひとり息子が母の成年後見人に選任されていたとします。その後、不幸にも心身ともに元気だった父の方が、突然先立ってしまいました。父の遺産分割協議を行わなければ、父名義の預貯金の払い出しができず、母の介護に支障が出てしまいます。しかし、息子は母の法定代理人であり、母との間で遺産分割協議を行うことはできません。この場合も、家庭裁判所で特別代理人を選任する必要があります。

当職が、後見の相談を受けるときは、どこかで利益相反行為を行う可能性があるかどうかをいつも考えながら、後見人候補者を決めたり、引き受けたりしています。夫婦双方の後見人になることもありますが、例えば夫の年金で妻も生活しているようなケースでは、日常的な支出は扶養義務があるからという理屈が成り立つので、後見人の判断ということで支出しますが、高額の介護用品が必要になったような場合、これは扶養義務を超えた贈与となる可能性があり、そうすると、夫が損をし妻が得をするという関係となりますので、念の為、家庭裁判所に相談をすることになります。常識的に考えれば、アホみたいな話なのですが…。

近年、ますます成年後見制度の利用が増え、家庭裁判所の方針として、後見人は極力親族に担ってもらうというものがあります。その方針には大賛成なのですが、親族後見人となられた方は、利益相反行為というものがあるんだということを、頭の隅っこに置いておいてください。

なお、今回は触れませんでしたが、不在者財産管理人も、不在者の法定代理人となりますので、利益相反行為を考慮する必要があります。

ところで「利益相反」で検索すると、やたらと会社のコンプライアンス関係の情報が出てくるんですよね。検索にたくさん出てくるということは、むしろコンプライアンス守ってないんだろうなって気がしてしまいます。