意思能力と行為能力について

契約(売買契約や賃貸借契約など)を有効に成立させるには、民法上、契約を締結するときに「意思能力」と「行為能力」という能力を有していることが必要です。それぞれどのような能力であるのか紹介します。

「意思能力」とは、「自分の行為の結果を弁識し、判断できる能力」のことです。契約を締結することによって自分にはどのような権利や義務が生じるのかきちんと理解できる能力、要するに、正常な意思決定をする能力です。民法では、意思能力を有していない者が行った契約などの法律行為は、無効と扱われます。

民法3条の2

法律行為の当事者が意思表示をした時に意思能力を有しなかったときは、その法律行為は、無効とする。

例えば、どうしても欲しいスマホがあったとして、意思能力を有している人は、契約を締結することによるメリット(最新のスマホが手に入る)・デメリット(無駄に高い機種代と通信料を支払う)を比較し、その結果を受けれられるかどうかを吟味し、よしこのスマホを買おう、料金プランはこれにしよう、と決定するわけです。一方で、おもちゃの前で泣きながら動かない子供は、かわいいですけれど、欲しい気持ちだけでその後のことまでよく考えているのかというと、なかなか難しいことになります。当職も、明らかに転売ヤーに値段を釣り上げられている Nintendo Switch の購入を決心する際は、メリットとデメリットを比較して、何日も逡巡しました。

では、どのような場合に、意思能力を有しないとされるのでしょうか。意思能力を有するか否かは、法律行為が行われた時点における当事者の状況や精神状態などに応じて判断されます。したがって、一般論として説明するのは難しいのですが、民法の基本書などには、未就学児(小学校入学前程度の子供)、重度の精神障がい者、泥酔者などが、意思能力を有しない者として例示されます。

意思能力を欠いた状態で締結した契約は、意思能力を欠いていた人自身、またはその法定代理人により、無効の主張が可能です。自業自得な感じもしますが、泥酔状態でお小遣いをあげると約束したとしても、シラフに戻ってから無効主張できることになります。

「行為能力」とは、ひとりで確定的に有効な法律行為を行う能力のことを言います。逆から言うと、行為能力を欠く者が単独で行った行為は「確定的に有効な契約とは言えない」ということになります。

民法第120条1項

行為能力の制限によって取り消すことができる行為は、制限行為能力者又はその代理人、承継人若しくは同意をすることができる者に限り、取り消すことができる。

基本的に、意思能力がある人は、同時に行為能力があるのですが、民法は「制限行為能力者」を定めることにより、行為能力が制限される者を、一律に定めています。これは、取引の安全や、何より行為能力が未熟であったり何らかの問題があって発揮できない方を、不利益な契約の拘束力から守る必要があるからです。個々の状況や精神状態などで判断する「意思能力」と大きく異るところです。

民法が規定する制限行為能力者は、未成年者、成年被後見人、被保佐人、被補助人です。未成年者は年齢で決まりますが、成年被後見人、被保佐人、被補助人は成年後見制度を利用することによって、制限行為能力者とされます。そのため、本当に行為能力を制限してよいのかどうかを判断するために、家庭裁判所での審判が必要となります。

未成年者の場合は、親権者または未成年後見人、成年被後見人等には、それぞれ、成年後見人、保佐人、補助人が法定代理人として、契約を代理したり、契約に同意したり、場合によっては、契約を取り消したりすることによって、制限行為能力者が行う契約(法律行為)をサポートすることになります。

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