会社・法人の目的変更登記の必要性

法人については、民法に次の条文があります。

民法34条

法人は法令の規定に従い、定款又は寄附行為に定められた目的の範囲内において、権利を有し義務を負う。

判例や通説では、この規定は「法人の権利能力の範囲を制限し、それと同時に法人の行為能力の範囲をも定めた規定である」と解されています。つまり、法人(会社含む)は、定款で目的として定められた事業のみ行えるのであって、目的範囲外の事業を行った場合、それは法人の事業ではない、ということになります。目的範囲外の事業を行った法人自身はある意味自業自得なのですが、取引相手は、その法人と取引したつもりだったのに、後になって、それは法人の事業の目的に記載されていないから法人との取引ではない、という理屈が成り立ってしまうので、取り引き前に法人の目的を確認し、適法にその事業を行うことができるのかどうかを確認することになります。ですから、法人が目的を変更した場合、必ず登記記録を変更する必要があります。

許認可を得る必要のある事業を行う場合、許認可を得る条件として、目的変更の登記をしておかなければならないとか、監督官庁に指導されて変更せざるを得ないという場合も多く、実務では、法人が自ら目的の変更するというより、外部から指摘されて目的を変更するということが多いように感じます。新規事業を行うときに融資を受けようとするときも、同じく、金融機関から新規事業を追加するように求められることがほとんどです。

いずれにせよ、法人の目的は、会社の権利能力の範囲を定めるものですから、現に行っている事業は必ず目的に入っていなければなりませんし、取引の相手方からの信頼を得るためにも、きちんと登記しておかなければならないものです。

以下、独断と偏見のみでお送りします。

司法書士として求められるであろう回答は上述になりますが、こと会社については「目的」を登記する必要があるのか、疑問に感じることがあります。上述のとおり、会社(法人)は、会社の目的の範囲内で権利義務を有する(=事業の主体になれる)ので、反対から言うと、目的範囲外の事業は行うことができない、ということになります。これが会社の目的を登記しなければならないというひとつの根拠になります。しかし、一方で、会社を律するメインの法律が商法から会社法に変わったときに、会社の目的として「商業」とか「事業」などと登記してもよいことになりました。そうなってくると、単に「商業」と目的の登記がなされていても、何の事業をしているのか登記記録を見ても分からないわけです。こんな意味不明な目的を登記している会社はないと思いますが、仮にこのような会社が存在するのであれば、「会社の認識で会社の事業として行えば、それは全て会社の目的範囲内」ということになり、これがまかり通るのであれば「これって目的を登記する意味を失くしちゃってるよね?」となるわけです。

法務省よ、本当にこれでいいのか?

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