ちょっと異色?介護保険制度

介護保険は平成12年にスタートした保険制度です。健康保険法は大正15年、厚生年金保険(前身の労働者年金保険法)は昭和17年、国民健康保険法は昭和33年、国民年金法は昭和36年にそれぞれ始まっていますので、随分と”若い”保険です。実は、介護保険は、成年後見制度と同時にスタートしています。ですから「介護保険制度」と「成年後見制度」は高齢者の生活を支える車の両輪と言われたりします。

制度開始から20年を経て、「デイザービス」や「グループホーム」など介護保険で利用できるサービスはすっかり定着しましたが、日本では長らく「介護は家庭の問題」という意識があり、介護する家族の負担が重く、介護を民間の業者にお願いした場合まさに「介護サービス」であり、相応の費用が必要でした。一方、公的な介護の提供は、市区町村主体で行われており、入所する施設の選定などについては、自治体の判断で一律に行われ、また、老人医療の分野では、介護を理由とした長期入院が増加し、医療費財源を圧迫していました。こうした問題を解決すべく登場したのが「介護保険制度」です。

介護保険制度では、それまで社会福祉法人や医療法人などにのみ認められていた介護事業に、民間企業が参入できるようにしました。民間企業の参入によって競争原理が働くため、よりよいサービスの提供が期待でき、利用者も選択肢が増えることになります。そして、提供される多様な介護サービスからどのような介護サービスが必要であるのか(ケアプラン)を、介護支援専門員(ケアマネジャー)に作成してもらうというプロセスが導入されました。この、ケアプランの作成を依頼すること自体が契約になるため、ひとりでは契約できない状況にある方を代理または支援するために、成年後見制度が必要になるという関係性があります。

日本国内に住所を有する40歳以上の人は、原則として、全員が介護保険の被保険者(加入者)となります。被保険者は、65歳以上の第1号被保険者と40歳から64歳までの第2号被保険者に分類されており、第1号被保険者についてはおおむね年金からの天引きによって、第2号被保険者はおおむね医療保険と一緒に、介護保険料を支払っています。40歳になると微妙に医療保険の保険料が高くなるのはこのためです。

ここからが介護保険の異色なところですが、介護保険では、被保険者であっても、要介護認定や要支援認定を受けないと介護保険法による給付(介護サービス)を受けることができません。そもそも、介護保険に加入しても、申請しなければ、介護保険被保険者証すら交付されません。保険料を払っているのに、自由にサービスを受けられない、加入してることを証する証書すら交付されない保険は、本当に異色だと思います。

介護保険法による給付を受ける対象となるためには、すなわち、要介護・要支援認定の対象となるためには、第1号被保険者の場合、原因を問わず、要介護状態(認知症などで介護が必要な状態)、要支援状態(日常生活において支援が必要な状態)であることが要件となります。一方、第2号被保険者の場合、下記に列挙する特定疾病によって要介護状態・要支援状態であることが要件となります。

介護保険の特定疾病
疾病名
末期がん
筋萎縮性側索硬化症
後縦靭帯骨化症
骨折を伴う骨粗しょう症
多系統萎縮症
初老期における認知症(アルツハイマー病、脳血管性認知症など)
脊髄小脳変性症
脊柱管狭窄症
早老症(ウェルナー症候群など)
糖尿病性神経障害、糖尿病性腎症及び糖尿病性網膜症
脳血管疾患(脳出血、脳梗塞など)
進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核変性症及びパーキンソン病
閉塞性動脈硬化症
関節リウマチ
慢性閉塞性肺疾患(肺気腫、慢性気管支炎など)
両側の膝関節または股関節に著しい変形を伴う変形性関節症

上記の要支援・要介護状態に該当し、かつ、介護サービスの利用が必要である場合、住所地の市区町村に対し、要介護・要支援認定申請書を提出します。市区町村が一方的に要支援・要介護認定して、介護(予防)サービスを提供してくれるわけではありません。社会保険労務士は、業務として、この要介護・要支援認定申請書の作成を代理することができます(やっている人を知りませんが…)。一般的には、家族や地域包括支援センターなどが代行していることが多いと思われます。この申請を受けて、市区町村においてどの程度の介護サービスの提供を行う必要があるか、本人の状況を調査したうえで、要支援1~2、要介護1~5までの7つの区分に振り分けます。数字が大きくなるほど支援・介護度が重くなり、受けられる介護サービスの種類が多くなったり、利用できる限度(金額)が多くなったります。

申請の結果、要介護1~5と判定された場合、在宅で介護サービスを利用する場合、居宅介護支援事業者と契約し、その事業者のケアマネジャーに依頼して利用するサービスを決め、介護サービス計画(ケアプラン)を作成してもらいます。施設へ入所を希望する場合、その施設に在籍するケアマネジャーにケアプランを作成してもらうことが一般的かと思います。ただ、外部からでは、正直なところ、この違いがよく分からないことが多いです。というのも、施設によっては、有料老人ホームとデイサービスと居宅介護支援事業所を同じ敷地内で提供するなんてこともあり、どこまでが在宅サービスでどこからが通所サービスで、それを内部のケアマネが決めたのか外部のケアマネが決めたのか、理屈では理解できても、誰が何の役割をしているのか、いまいち理解できないことが多々あります。

要支援1・2と認定された場合、地域包括支援センターで担当職員が介護予防サービス計画(介護予防ケアプラン)を作成します。介護予防サービスは、介護そのものを提供することが目的ではなく、現状の身体機能を改善できるよう、または身体機能が低下しないようサポートし、要介護状態になることを予防することが目的なのですが、実際に提供されるサービスは、通常の介護サービスの一部を限定的(金額や利用回数による制限)に提供する形式になっています。

実務では、日頃の生活からは施設入所が適当であると見込まれても、要支援の判定が出て、経済的な理由などもあり、やむなく自宅で一人暮らしを続けざるを得ないようなケースも生じることがあります。要介護認定が不要なほどお元気であることは喜ばしいことではあるのですが、このケースが、実務上一番苦労するケースかもしれません。一人だとなかなか日常生活が難しいのに、調査員が来ることが分かるとシャキッとされる方は案外多くいらっしゃり、当職は、医療の専門家ではありませんが、経験上、アルコール性の認知症の方にこの傾向が強いように感じます。

介護保険は、介護事業提供者のほか、地域包括支援センターや市区町村担当部署も関わってくるので、本当に手続が煩雑です。医療と介護、福祉と介護の境目も分かりづらいことが多く、後見業務を行っていると、どなたかどの仕事をされているのか、個々のサービスがどの根拠法(条例等含む)に基づいて提供されているのか、区別がつかない場面に多く出くわします。これが、当職が社会保険労務士の資格を取ろうと思った原因のひとつでもあるのですが、実際に資格を取っても区別がつかないことが結構あります。色々なサービスを選べることはいいのですが、細分化しすぎて逆にサービスを選びにくくなってる感すらあります。そして、医療、介護、福祉の現場の方にお願いしたい!せめて同じ業務を行う人の肩書だけは統一できないもんでしょうか?