相続人不存在と相続財産管理人

相続人不存在とは、読んで字のごとく、相続人が存在しないことをいいます。相続人不存在になるケースは、亡くなられた方の家族構成に起因するものと、相続放棄などの手続きに起因するものがあります。

まず、家族構成で相続人不存在となるケースです。別の記事で紹介していますが、民法では、相続できる親族の範囲(法定相続人)を定めています。法定相続人となるのは、常に配偶者、第1順位の子供(直系卑属)、第2順位の父母(直系尊属)、第3順位の兄弟姉妹(時に甥姪)です。これ以外の親族は、いくら亡くなった方と親しくても、面倒をみたとしても、相続人にはなれません。したがって、亡くなったときに、これらの親族がひとりも生存していない場合、相続人が存在しない、すなわち「相続人不存在」となります。

次に、相続放棄などで相続人不存在となるケースです。一番分かりやすい例だと、法定相続人が全員相続放棄をした場合です。亡くなった人に多額の借金が残っているような場合、債務負担から逃れるために、相続人は相続を放棄することができます。上述の法定相続人全員が相続放棄をすれば、相続人が存在しない、すなわち「相続人不存在」となります。他にも、相続欠格、相続人の廃除によって相続人が相続人たる地位を失った結果、法定相続人がいなくなる場合も相続人不存在となります。

相続人不存在となった場合でも、亡くなられた方の相続財産を放置するわけにはいかないため、利害関係人からの申立てにより、家庭裁判所で「相続財産管理人」が選任されることとなります。法的な建前としては、相続人が存在しない場合、全てのケースにおいて相続財産管理人を選任すべきですが、実務上では、債権回収が見込まれる場合や特別縁故者への財産分与が見込まれる場合に、申立てがなされることになります。要するに、費用対効果による、ということです。

相続財産管理人が選任されると、財産を換金して借金を支払ったり、特別縁故者が存在すれば財産を分与したりして、残された資産を整理していきます。債権者や特別縁故者に分配してもなお余った相続財産は国庫に納められ、管理すべき財産がなくなったところで、相続財産管理人の業務は終了します。

…と、うまくいく事もありますが、実務では、利用価値のない不動産の引き取り手がないという問題があります。民法の規定に従えば、国庫に帰属することになるので、国が国の土地や建物として受け入れるべきなのですが、この仕組みが機能していません。国の方でも、所有者不明土地問題のひとつとして、相続人不存在の土地の国庫帰属について検討を始めています。現状は、いつまでも名前だけの相続管理人を続けるか、金銭がゼロになった時点で家庭裁判所の許可を得て相続財産管理人を辞任するか、の方法が取られることが多いと思われます。

余談ですが、当職、とある市長に対し、過疎化対策も含めた話の中で「利用価値がある土地なら自治体が積極的に受け入れて、逆わらしべ長者のように、その土地と利用価値の低い民有地を交換し、有用な土地を民間に、利用価値の低い土地は自治体に、それぞれ集約すれば?」と提案したのですが、「公有地を低額で処分することは法律上難しい」と言われたことがあります。え?でも格安国有地に私立の小学校が建ったところあるよね?

放置することによって、空き家とか耕作放棄地になってもっと多額の税金が注ぎ込まれることになるのであれば、絶対にいい案だと思うんだけどな…。

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