特別縁故者への財産分与とは
人が亡くなった場合、相続が発生します。多くの場合、相続人が残された権利義務を引き継ぐことになりますが、相続財産を引き継ぐ者がいない場合、最終的に、残された財産は、国庫に帰属することになります。
しかし、亡くなった人に、相続人に準じて扱ってもいいような間柄の人(特別縁故者)がいた場合、この人に相続財産の一部または全部を引き継いでもらうことが適当です。そのための制度を特別縁故者への財産分与といいます。相続財産管理人が行う相続財産の精算手続きの一環として、特別縁故者が存在した場合、家庭裁判所の審判を経て相続財産が分け与えられることになります。
特別縁故者となるためには、生前亡くなった人と生計を同じくしていたとか介護をしていたなど、亡くなった方との間に、文言どおりの特別な縁故があったと家庭裁判所で認められる必要があります。なお、特別縁故者は人に限りません。法人も特別縁故者となることができます(レアケースです)。先例では、「重病の者で、幼少から伯母によって育てられ、伯母の死後はその夫であった被相続人によって看護されてきた場合」や「被相続人の近所の人で、被相続人の生活の世話をし、退院後は自宅で面倒を見る、繰り返し入院した時も手続きや見舞い、世話をし、被相続人の死亡後には葬儀を行った場合」などが、特別縁故者として認められています。
一方、看護師や家政婦など、報酬を受け取っていた場合には、原則として、特別縁故者にはなれません。仕事として行っているからです。ただ、気になる先例がありました。
被相続人の又従兄弟の配偶者が、被相続人の身元引受人になり、さらに任意後見人となる契約を締結しており、精神的よりどころとなっていた場合(鳥取家審平成20.10.20)
家庭裁判月報第61巻
この事例は、任意後見人となられた方が、任意後見業務を無償かつ献身的にされており、任意後見という制度を超えた繋がりがあったものと思慮されます。というのも、任意後見人は、場合によっては業務上横領を問われる立場であり、また、死後の財産を引継ぐつもりで本人(任意後見をお願いした人)に必要な支出をしない可能性があるなど、特別縁故者として認められるには、なかなかのハードルがあるからです。
特別縁故者として相続財産分与の請求は、上述のとおり、相続財産管理人が行う相続財産の清算事務の一環として行われることになります。ですから、特別縁故者に当たると思っても、いきなり「特別縁故者として相続財産分与の請求」ができるわけではなく、まずは相続財産管理人の選任を申し立て、それによって選任された相続財産管理人が所定の手続を経て、相続人がいないと確認されてから、ようやく行うことができます。実際は、相続財産管理人の申し立てから特別縁故者への財産分与まで、スムーズに進んでも1年近くの期間を要することになります。
そして、特別縁故者と認められるかどうか、どの程度の財産の分与が認められるかどうかは、家庭裁判所の審判で決まることになります。ですから、「特別縁故者として認められなかった」「特別縁故者としては認められたけど分与された財産は僅かだった」という結果に終わってしまうこともあります。
余談ですが、信憑性は定かではないのですが、「不動産は分与されやすいが預貯金は分与されにくい」という噂がまことしやかに囁かれています。不動産は国に戻しても管理が大変なだけですが、預貯金は国庫に送金するだけですからね。なお、所有者不明土地問題も絡んで、今後は、不動産も積極的に国庫帰属させようという動きもあります。
特別縁故者は遺言もなく、相続人もいない場合の最終手段です。もし、相続人がおらず特定の人に財産を残したいとお考えの場合は、やはり、遺言書を残しておくということがベストということになります。