遺産分割協議とこじれたときのその後

誰がどのような割合でどの遺産を引き継ぐのか。遺産の分け方について遺言による指定がある場合には、これに従うことになります。遺言がない場合には、相続人全員で遺産の分け方についての話し合いをすることになり、この話し合いのことを「遺産分割協議」といいます。

「包括承継」という考え方をご存知の方にはイメージが伝わると思うのですが、当職は、遺産分割協議とは、本来、亡くなった方生前に決めておくべき遺産の行方を、相続人が全員集まり、あたかも亡くなられた方を形作って、遺産の行方を決める話し合いだと理解しています。伝え方が難しいですが、例えば、父親が亡くなって妻とその子たちで遺産分割協議をする場合、妻、子という立場ではなく、亡父の分身としての妻、亡父の分身としての子たちが集まって、亡父を代弁するという感じです。つまり、イタコのイメージ?

なぜ、このイメージに執着するかというと、いわゆる法定相続分が定められていることにより、配偶者が半分、子供が残り半分を頭数で等分して「遺産をもらえる権利がある」ように誤解していらっしゃる方が多いからです。では「もらう権利がないのか」と言われるとそれも全否定はできないので、なかなか言い方が難しいのですが…。

話を本筋に戻します。遺産分割協議は、相続人全員が集まり、その相続人全員が合意しなければ無効となります。たとえ法定相続分が1000分の1しかない相続人であっても、その人が同意しないと遺産分割協議は無効です。ほかにも、行方不明の相続人を無視して行った遺産分割協議も、相続人の一人が認知症などで判断能力がない状況であったのになぜだか話がまとまったことになっている遺産分割協議も、当然無効です。なお、遺産分割協議の内容に決まり事はありません。全て長男が相続するという結論でも、法定相続分どおりに相続するという結論でも、場合によっては、相続人全員の同意によって遺言と異なる結論を出すことも可能です。結局のところ、家族関係やそれぞれの相続人の意思、費用対効果等を十分に考慮し、うまい「落とし所」を見つけるしかないわけです。民法でも、小難しい言葉でそのように定めています。

民法906条

遺産の分割は、遺産に属する物又は権利の種類及び性質、各相続人の年齢、職業、心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮してこれをする。

では、遺産分割協議が整わなかった場合、どのような手続が可能であるか。辛抱強く協議を重ねるのももちろん選択肢のひとつですが、感情的にこじれてしまった場合、家庭裁判所で行われる遺産分割調停を申し立てた方がスムーズかもしれません。よく「裁判まではしたくない」と考える方もいらっしゃいますが、相続人の間に、裁判所がクッションとして入りますし、調停員や裁判官の客観的な意見も聞けるので、逆に冷静に話し合いができるチャンスとなるかもしれません。そして、遺産分割調停はあくまで話し合いの場です。一般的にイメージする原告と被告が向かい合って座り、壇上から裁判官が判決を下す「裁判」とは異なります。屁理屈に聞こえるかもしれませんが、少しは敷居が低くなるのではないでしょうか。

ただし、調停を行っても、出る結論としては、ほぼほぼ決まっています。「揉めるのなら法定相続分どおり相続して、それで皆さん納得しましょう」というものです。調停員も裁判官も、じっくりと話を聞いて(という下準備をして)、一部の相続人だけが多額の生前贈与を受けていたとか、一部の相続人だけが苦労して介護していたとか、そういった特段の事情がない限り「法定相続分による相続でどうか」という案を強烈にプッシュしてきます。ここで、法定相続分が威力を発揮することになるわけです。相続人を納得させるための切り札。それが法定相続分なのです。ですから「遺産をもらえる権利があるのか」と問われると「それは違う」となりますし、では「もらう権利がないのか」と問われると「それもちょっと違う」となってしまうわけです。

遺産分割調停を行っても、なお、話し合いがまとまらない場合、遺産分割の「審判」に移行することになります。こちらはイメージどおりの「裁判」になります。喧々囂々と主張しあって審判手続が長引く場合もあるのでしょうが、お互いの主張などは既に調停の場で出し尽くされている場合も多いので、案外短い期日で終了してしまう気がします。ただ、調停と同じく、特段の事情がない限り「法定相続分どおり相続せよ」といった旨の審判がなされる可能性が高いと思われます。それ以外に法的根拠がないですから。

以上を踏まえ、遺産分割協議の場に向かうときは、どこまで自分の意見を貫くのか、どのあたりが引き際なのかをご判断ください。